授業の導入
山田美奈都先生(左)と
カタリバ担当者 林曜平(右)
A.本校の研修旅行は、4つの中から生徒が行きたいコースを1つ選択する形式で行われています。
今回は、「震災の記憶を生徒に忘れて欲しくない」という教員陣の強い思いから、東北地方をコースのひとつに設定しました。ただ、実際に集まったのは、比較的真面目でおとなしく、自分の意見を主張するのが苦手な生徒たちでした。グループワークでも、なかなか活発な議論はなされていなかった印象を持っています。また、すべての生徒が震災に関心を持って集まったわけではありませんでした。
事前学習の際も、震災を他人事だと感じているような生徒も見受けられる状態でした。
A.もともとカタリバには、高校1年次の「カタリ場」でお世話になっていて、継続的に担当の林さんとは連絡を取らせていただいていました。そのようななかで、カタリバが東北地方に拠点を持っていることを知り、現地のことをよく知っている人にコーディネートをお願いしたいと思ったのが、今回の「教育旅行プログラム」の始まりでした。安全な旅行にするためにも、土地勘のある人が現地にいるという点は大変ありがたいことですし、プログラム内容も、より充実するのではないかと考えたからです。また、林さんと打ち合わせを進めながら、事前学習で内気な生徒たちにどう働きかけていくかをイメージできたことも大きかったです。
A.1日目は、東日本大震災でご家族を亡くされた遺佐藤敏郎先生のガイドのもと、74名の児童と10名の教員が亡くなった大川小学校を訪れ、3.11を想像するプログラムから始まりました。佐藤先生が語り始めたところから、生徒の表情が一変しました。現地に行って、直接現地の人の話を聞くことが、変化を起こしたのだと思います。また、事前学習でも、佐藤先生とはSkypeを通して学習をしており、生徒たちがメッセージを受け止める練習ができていたのだと思います。事前学習では、常に投げかけることを意識していました。佐藤先生からの投げかけ、そして我々教員からの投げかけを通して、生徒には「なぜこんなに多くの大人が投げかけるのか」を、考えて欲しかったからです。我々教員、そして体験者である佐藤先生からの投げかけが、少しずつ生徒の感情を動かし、当日に繋がったのだと思います。
佐藤先生の授業後のワークショップでは、これまでにないほど活発なディスカッションがなされていました。自分の意見を主張するのが苦手な生徒たちが、自分の意見を、自分の言葉で語れるようになったことが、一番変わったと思います。
また、同年代の高校生の話を聴いたのも、強く印象に残っているようです。「自分たちより1つ年下なのに、なぜあれほどまでに語れるのか」と、かなり刺激を受けていたようです。同年代ということもあってか打ち解けるスピードが速く、その後の語り合いでも、始終活発な意見が飛び交っていたのも大変印象的でした。
A.東北にいったメンバーが、段々仲良くなっていきました。以前は、グループを分けるのにもひと苦労だったのですが、事後学習で投げかけをした際、さっと近くで班を組んで話し合いを始めるようになりました。また、生徒の主体性も上がり、「自分たちから何をしたら良いのか?」を聞きにくるようになりました。また、一番大きかったのは、旅行後に「自分たちが出来ることをしたい!」と感じた生徒たちが、有志で「東北部」を結成したことです。教育旅行に参加した50名のうち、半数を超える30名ほどが参加して、①学校の避難訓練を変える(行動班)、②自分たちが学んだことを伝える(語り継ぐ班)という、2つの目的のもとに現在は動いています。
行動班では、校長先生も含めた全ての先生に向けて、現状の避難訓練の問題点と、今後への改善策を提案する予定です。「地域の人も学校に避難してきた場合、屋上に人が入りきらないのではないか」「屋上まで津波が来る可能性がある場合、どう対処するのか」「停電で自動ドアが開かなくなった場合、どう対処するのか」などの議論がなされています。
語り継ぐ班では、教員の防災意識を変える講演会と、後輩たちに自分たちの学びを伝えるワークショップを企画しています。「先生だけではなく、事務室の職員さんや地域の人にも伝えていくべきではないか」「始めは自分たちも震災を他人事だと捉えていた。意識が違う相手に、どう伝えていくか」などを議題に、試行錯誤しています。
A.最近は、若者が「自分たちで動き出そう」ということが少ない世の中になっていると思っています。その中でもNPOカタリバは、高校生が主体的に動くことを応援する活動をしていらっしゃると思っています。高校生と年齢の近いスタッフが多いからこそ、生徒にも気持ちが伝わりやすいのかもしれません。
今後も活動を、もっともっと広げていってもらえればと思っています。学校も、カタリバをはじめ様々な活動と連携しながら、生徒が主体的に動き出そうという意欲に働きかけていけたらと思っています。