【現場レポート】地方の高校生にとって地元大学は魅力的?山口県教育委員会×カタリ場の事例

2017.8.11 事例紹介

NPOカタリバ今村亮です。

地方は深刻な少子高齢化に悩まされています。少子化と都市への人口流出が同時に進行しており、とどまるところを知りません。教育の側面から見れば、生徒数は減り続け、学校の統廃合は次々と進んでいます。しかも卒業後の進路として地元大学が好まれず、県外への進学・就職が常態化している高校は多数あります。

カタリバが2015年から連携している山口県においても、その課題は例外ではありません。なんとか歯止めをかけようと、県は「人口減少克服に向けた取組への重点配分」を2016年の方針とし、6つの重点項目を掲げました。

その一つ「県内への定着・還流・移住の推進」において採用されたのがNPOカタリバとの連携です。そんなわけで僕は本日、山口県を訪れております。山口県はとてもすごしやすく、ご飯がうまいです。今回はこの現場についてレポートしたいと思います。

「高大連携」を目指し始まった山口県教育委員会×カタリ場

具体的にはこのような内容です。「県内大学魅力発見プログラム」という事業で、県のWEBサイトにはこのように説明されています。

(上記は山口県広報誌『ふれあい山口』2016年5月号 特集「活力みなぎる県づくりの推進~平成28年度当初予算~」より引用)
http://www.pref.yamaguchi.lg.jp/gyosei/koho/fureyama/backnumber/2016-05/category/tokushu.html

県内大学魅力発見プログラムとは?

「県内高校生へ県内大学の魅力などの周知、県内進学への意識啓発」が目的とされている、山口県教育委員会高校教育課の事業です。成果指標として問われるのは県内進学率の向上です。全国比較を見たときに、山口県の高校生は県外へ進学する比率が高いのだそうです。

そもそも県内進学率を高めようとしたときに、どんな方法があるでしょうか?イケメンと美女のモデルばかりの大学パンフレットをたくさん印刷したり、着飾ったオープンキャンパスをどーんと実施したところで、どれだけの影響があるでしょう。それよりも山口県教育委員会が選択したのは、大学生が自分を見つめる対話の場をつくり、そのありのままの魅力や葛藤を高校生へ出張授業で届けることでした。

「こんな魅力的な先輩がいる大学に行きたい」と高校生の心が動けば、県内進学率も動く。そういう計画です。

これはつまり、学生を募集・研修して高校への出張授業と送り出す「カタリ場」のモデルそのものを、全県に導入したという事業です。具体的には下記のような進め方となります。

プロジェクトの4ステップ

 1.山口県内の大学生を100名募集
 2.1泊2日の合宿研修
 3.7つの山口県立高校へ出張授業
 (1~3は主に大学の夏休み期間に進行)
 4.卒業式

合宿研修は山の麓にあるのどかなゲストハウス「紅花舎」で行いました。文化の香りと自然との調和を感じられる素敵な宿です。しかもごはんがうまい。この場所で、初対面の大学生たちの心はほぐれ、少しずつ対話の火が灯っていきます。その様子はこちらの動画でご覧いただくことができます。

対話は何を変えたか?

2016年の一年間、プロジェクトを通して大きな変容を感じさせてくれたのは大学生たちです。

「山口は何もないから大学が面白くない」「なんとなく地元の大学にきた」「センター試験に失敗したから都会の大学に行けなかった」そんな風に漏らしていた大学生たちは、仲間とともに人生をふりかえる過程を通して、現実を捉え直し力強く進む様子を見せてくれました。彼らが高校生のために紡ぎ出す言葉は、ブーメランのように回り回って、彼ら自身の背中を押したのだと思います。まず県内大学の魅力を発見したのは大学生自身でした。

一方、高校生はどうでしょう。アンケートでは、今までレッテルや偏差値でしか見ていなかった県内大学について実感を伴って理解できたという声が寄せられました。大学生と話しながら涙を見せる高校生も見受けられました。たった120分の出張授業ですが、大学生と真っ正面から話したことのない高校生にとってはすべてがスポンジのように吸収されていくのでしょう。

その様子は各大学のWEBサイトでも発信されました。

・山口大学COC+事業
http://www.yamaguchi-u.ac.jp/coc-plus/_5139/_5143/_5487.html?media=pc

・至誠館大学
http://www.shiseikan.ac.jp/blog/5777

重要なのは事業成果の可視化

では今後、この出張授業を体験した高校生たちはどのような進路を選ぶでしょうか。地元で学ぶべきか、地元を離れるべきか。大きな葛藤が待ち受けていることでしょう。ブランドや偏差値に操られるように県外へ離れるのはもったいないことですが、かといって県内に束縛することが正解とも思いません。その葛藤に大学生たちとともに向き合っていくこともまた、このプロジェクトの宿命です。

この夏、「県内大学魅力発見プログラム」は真価の二年目が始まります。今年は6高校を巡ります。事業の成果を可視化していくのはこれからです。しっかり現場を見つめていきたいと思います。


(文責:今村亮

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