授業の導入
第一学年主任
堀越健樹先生
※2014年度には1年生に「カタリ場」を、15年度には2年生に「キャリア・リテラシー」を実施しました。
A.カタリバさんにお世話になる前は、とても消極的で、クラスの中心で活動したことの少ない生徒も多かったです。一部の優秀な生徒は別だけれど、自ら課題をみつけて取り組むという姿勢は、なかなか見られなかった。
もしかしたら、これまで自ら一歩踏み出そうとすると、心配されたり注意されたりしてきたこともあったのかもしれません。結果を気にして、縮こまってしまっているように見えました。
生徒が拙い表現で何かを伝えようとすると、うまく自分の考えをまとめられず、忙しい教員や親に伝えられないことが多く、消極的になってしまっていった。
生徒には人の目を気にしすぎずに、もっと主体的に、活動的になってほしかった。そのためには、「一歩踏み出すことで、変化が起きる」ということを実感してもらいたいと思っていました。
A.カタリバさんは、学校に来ている保険会社さんが紹介してくれて、初めて知りました。本校では、教育実習生や進路の決まった3年生に話を聞くといった機会を、キャリア教育に取り入れているんですね。ちょうどその頃は、「生徒たちに、大学生の話を聞かせたい」と考えていたところだったので、「ぜひやりたい!」と思いました。
実は、他の教員は効果があるかどうか測りかねていました。でも私は、生徒たちにもっと多様な人たちから、“生(なま)”の話を聞く体験をさせたかった。もちろん、有名な方を招いて講話を聞かせたり、教員自身が話をすることもできます。ただ大人は、自分で得た経験を、「こういう風にしたら、伝わるんじゃないか?」と“味付け”して出してしまう。“味付け”された話は、どうしても一般論になってしまって、生徒たちは「もういいよ・・」とお腹いっぱいになってしまいます。
一方、歳の近い大学生や専門学生は、“生(なま)”のまま話してくれます。もちろん卒業生の話を聞く機会は設けているのですが、どうしても内輪向けになってしまいます。外から来た人たちの話を聞いて、いろいろなことを感じてもらいたかった。だから、「これはいい!」と思って飛びついたんです。
A.2014年12月に、まずは進路意欲を高めるため1年生へ「カタリ場」を行ってもらいました。翌年の5月には、2年生に「キャリア・リテラシー」と言って、具体的に進路選択について考えさせるプログラムを実施してもらいました。「総合的な学習の時間」に「ロングホームルーム(LHR)」を加えて、時間をとりましたね。
2年生への授業は遠くから見ていたのですが、生徒たちの目線の強さが印象的でしたね。説明なさっている方々を、真剣に見ていました。私たちも教壇に立って目線を意識しながら授業をしているのですが、あそこまで強い視線はそうは感じないです。教室で受ける通常の授業と違って、興味・期待感をもって参加している。あの授業の場合は、「私と同じなんだ」「俺と同じような思いを、悩みを持っているんだ」と、同調意識ですかね、気持ちを共有するという点で、ものすごく目線が強かったんですよ。
A.1年次に行った1回目の「カタリ場」の後は、進路への関心が高まって、行動が変わった様子が確実に見られましたよ。進路室前の廊下の壁に、現3年生が進む指定校の大学や専門学校の名前を貼り出しているんですね。今までは、2年生のうちに見ている生徒はあまりいなくて、早くてもせいぜい3学期にならないと見ていなかった。今は、2年生の初めの頃から見ています。
進路資料室に出たり入ったりしている生徒もいるし、休み時間に進路のことを話す生徒もいると、担任の教員からも聞きました。12月という時期も、タイムリーでした。夏休みが明けて進路を考え始めて、ところが秋の文化祭で進路への意識が薄れるので、そこでもう一回カタリバさんが入る。生徒の意識を「掘り起こす」「戻す」ことができてよかったですね。
2回目の、2年次に行った「キャリア・リテラシー」の後には、話を聞く姿勢が変わりました。カタリバの他にも、外部から来られた方の話を聞く機会を用意しているのですが、メモを取ったり質問したりと真剣に聞くようになりました。なかには、自分から身を乗り出して写真を撮りにいく生徒もいましたよ。これまでは教員がお膳立てしても、生徒たちは「じゃあ来たから、話を聞こうかな」というスタンスだったんですよ。でも、カタリバさんは身近な話をしてくれたので、外部の方の話を聞く価値を生徒も実感できたのかもしれません。生徒が関心をもってくれているので、進路指導もやりやすくなりました。ただ、タイミングをはかって導入しないと、カタリバの授業だけが浮いてしまって、効果が上がらない危険性もあると思います。
A.これまでのキャリア教育は、横(学年単位)での取り組みでした。これからは、縦(1年〜3年)のまとまりとして、活動時間を設けられたらいいなと思っています。たとえば、3年生が1年生に自らの経験を共有できるような場をつくりたい。会社に入れば“上下関係”の中で生きていくけど、学校では“横の関係”ばかりが意識されてしまいます。だから、学校でも縦の関係をもっとつくれる機会をつくりたいです。生徒同士の関係性には、男女の差もあるので難しいのですが、男女関係なくしっかりと共同できるようになってほしいです。
カタリバは、費用がどうしてもかかってしまうので、公立高校ということもあり導入にハードルもあります。もっと回数を多く、実施する機会を設けたいのですが・・
脚色した話や取り繕った話なら、我々教員の側でも、説明会や講演で数多く機会を設けています。ただ、“生の”声をそのまま伝えてくれるのは、カタリバさんしかいない。だから、もっとプログラムを取り入れていきたいと思っています。