~いま、本当に必要な教育コンテンツは「コミュニケーション」と「憧れられる人の存在」である~
産業構造が変わり、グローバル化し、人材の流動性が生まれた日本社会では、
企業が人材を守る終身雇用型から、競争をベースにした雇用体制に変わりました。
企業はただ言われたままに働く「労働者」をよりも、自ら考え、目標を持ち、
チャレンジできる人材を求めるようになっていると聞きます。
学校的な学力や、技術的なスキルももちろんですが、これまで以上に強い心と根性、
努力や根性が、この社会を生き抜く上で重要な要素となります。
労働者側も、給与水準の上昇だけではなく、成長感ややりがいを、求めるようになりました。
企業が学生たちに打ち出す就職活動は「自分のやりたいこと」をベースに自己分析をあおります。
どこかにあるかもしれない「本当の自分」を探しすぎて、路頭に迷い、無業者になる若者も増え、
今日本社会の中には、失業中、未婚派遣社員を入れると未婚若年不安定雇用者数は400万、
「引きこもり」については正確な数値がないものの、推定50万人とさえ言われています。
子供たちを取り巻く環境も大きく変わりました。
彼らはケータイを使いこなし、住んでいる場所も違う、直接会ったことのない人と、
架空の自分で友達になる術を持ちました。
「本当の気持ちを打ち明けられる友達は、会ったことのない遠いところにいる人」
それは、大人が到底想像もできない、子供たちの間に起こっているリアルな変化です。
めくるめく、遷り変わるこの時代において、学校教育はいまだに変わっていません。
変わっていないのは、教育カリキュラムや教員のみではなく、
メディアのあおりをうのみにし、求める姿勢だけを強めた親たちもまた、思考停止状態です。
この時代の、学校教育の役割。 大人はみんなで迷っています。
ゆとり教育のせいで子供の学力が下がったという虚構。
対処療法的に教科書を厚くしようとする文部科学省。
学習時間を増やすために部活動や学校行事を削減する学校。
ひとまず家庭の所得を塾や予備校の月謝につぎ込む親たち。
そして、隣の人はあかの他人、と、地域に関わろうとしない大人たち。
いろんなコンテンツを子供たちに与え続けても、その前提として
「モチベーション」が沸いていないと、すべては空振りに終わります。
教育制度が変わっても、教科書が薄くなっても厚くなっても、
学校が休みになって親があせって塾に通わせても、
意欲が沸いていない子どもたちには、なんら関係のない他人事、なのです。
昔は当たり前だったのかもしれない、大人の役割。
出来たときには思いっきりほめてあげること。 ダメなことはダメと、叱ること。
誰かに叱られて泣いている子がいたら、頑張れ!と、励ましてあげること。
友達とうまく行かなくて悩んでいる子がいたら、彼女が見えている小さな世界を広げてあげること。
そして、自らの人生を持って、子供たちの手本となること。
社会で生きるすべての大人の担うべき役割です。
また、本当は担うべき、学校教育の役割。
学校は勉強をするだけの場所ではないということを、大人たちは経験しています。
クラス、グループ、委員会、部活動などの様々なチャレンジで感じる
できた!という小さな成功体験や、できなかった、という小さな失敗体験の価値。
出来なくても励ましあうことで得られる、自己肯定感。
励ました方も、目の前の友達が元気になってくれたことで嬉しくなる優しい気持ち。
いざこざも、けんかも、恋も、人間関係の全部が、人と人が一緒に社会を構成する大切な勉強です。
これらすべてが、7歳から18歳まですごす「学校」の重要な役割なはずなのです。
「モチベーション」とは内発的に醸成されるものです。
誰かが「やる気出せ!」と一喝しても、学級目標を変えても、そう簡単に出てくるものではありません。
子供たちが、「知りたい」と思えること。「やってみたい!」と思えること。 「行って見たい」と思えること。
そう思えた瞬間からが、はじまりです。
やっとそこから、学校や家庭で与えられる教育コンテンツのすべてが、価値のあるものに変わるのです。
そんなモチベーションを引き出すために、もっとも効率的な方法はなにか。
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私たちの仮結論は、「憧れの人を見つけること」だと考えます。
「憧れの人」は、指導者と被指導者という、利害関係があるタテの関係からは生まれにくく、
また、たくさんの「他人から見られているの自分」を意識しすぎながら生活しているヨコの関係の
同世代の友達関係からも生まれにくいものです。
ではどうしたらいいか。
自分より年上で、あかの他人だけど自分に優しく接してくれる、だけど率直に考え方を提示してくれる人。
自分が経験したことのないフィールド。押し付けがましくないロールモデル。
彼らの日常に欠けているそんな大人との出会い、そんな人たちとのコミュニケーションこそが、
彼らを動機付ける方法なのではないかと私たちは考えます。
それが、きっかけ生まれるナナメノ関係、カタリバプログラム、です。
伝える側は、すごい人である必要はありません。
モラルや公序良俗に反しなければ、どんな人でも人生の先輩です。
もっといえば、年下にだって、学ぶことはあります。
その出会いは、インターネット上でのそれに似た、匿名的で本気なコミュニケーション。
また、みんなで同じ教科書を順序だてて学ぶ経験に飽き飽きしている子供たちが、初めて出会う社会との接点です。
日本社会における教育の停滞を打破し、成熟社会に必要な教育プログラムを作りたい。
そのためには、より多くの人の協力が欠かせません。
これからの社会を担う日本中の若者たちが、「大人」と関わり、憧れを見つけること。
そして、コミュニケーションの楽しさや大切さを感じること。
大人になりたくない子供たちが、大人になりたくなる。
それは、前向きさと主体性を兼ね備え、家庭・学校・企業・地域など、社会全体をよりよくしていくことにコミットしていける未来の「大人」である子供たちの続く日常に彩を添える、きっかけになるのです。
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今村 久美 (いまむら くみ)
NPOカタリバ代表理事。岐阜県高山市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。
2001年に任意団体NPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。
2006年には法人格を取得し、全国約400の高校、約90000人の高校生に「カタリ場」を提供してきた。
2011年度は東日本大震災を受け、被災地域の放課後学校「コラボ・スクール」を発案。
第一校目の「女川向学館」を宮城県女川町で開校し、被災地の子どもに対する継続的な支援を行っている。
2008年「日経ウーマンオブザイヤー」受賞。2009年内閣府「女性のチャレンジ賞」受賞。
文部科学省生涯学習政策局政策課教育復興支援員。明治学院大学非常勤講師。
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